今なぜ複業が注目されているのか 〜多角的な視点から紐解く〜


昨年末、厚生労働省が複業を解禁するというニュースが話題になりました。具体的には、厚生労働省が公開する現状のモデル就業規則では、兼業・複業を禁止していますが、これを容認に改定するとのことです。

複業の容認や禁止は各企業に委ねられていますが、これまではモデル就業規則をベースに規則が作られることも少なくなかったようです。今回の改定により、複業を原則容認する企業が増えていくことが予想されます。

また、政府として複業を促進していきたいという意志の表れであるとも言えるので、企業も複業解禁へ動き出すことが考えられます。

今回は、今なぜ複業が注目されているのかを、政府や企業の視点など、多角的に紐解いてみたいと思います。

尚、複業に関連する言葉として、副業、兼業、パラレルキャリアなどがありますが、本記事では複業に統一します。仕事を1つに限定せずに、ボランティアなどを含む広義の仕事を複数行うことを、「複業」という表現で使用します。

 

政府が複業に注目している理由

経済産業省の視点

経済産業省は、2016年10月に「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を発足しました。

公開されている資料から複業推進の目的を紐解くと、以下の課題が複業推進のきっかけのようです。

  • 人口の減少、特に就業人口の減少により生産性が低下する
  • 製品のライフサイクルの短期化や技術革新に伴い、企業が自社で抱える人材だけでは国際競争力が維持出来ない

 

これらの課題に対して、複業やフリーランスの促進で以下の効果が期待できるため、有効な解決策として考えているようです。

  • 複数の企業へ、複業家やフリーランサーが持つ知識やスキルが提供される
  • 個人が1つの会社に留まらず、多様な環境や人脈に触れることで、自分に合った働き方や興味関心を持ち、自発的なキャリア形成につながる

 

まとめると、各個人が尖ったスキルや知識を身に付けて、その力を様々は場所で発揮しよう、といった感じでしょうか。

人口減少の進行や技術革新の進展により、産業構造・就業構造が大きく変化することが予想される中、従来の企業との雇用関係を前提とした働き方のみでは、こうした外的環境変化に順応できず、働き手や企業双方において競争力を低下させてしまう恐れが指摘されている。

このように、「働き方」に関して大きな見直しが迫られている中、「兼業・副業」や、働く場所・時間から開放された「フリーランス」など、雇用関係によらない柔軟な働き方が注目されている。

こうした柔軟な働き方は、自身のスキルを最大限活用しながら、ひとりひとりのキャリア意識・ワークスタイルに合わせた働き方を可能とし、個人の豊かなくらしの実現に貢献することが期待されている。

また、企業にとっても、多様な人材の確保に繋がるなど、日本経済の競争力強化の面でも柔軟な働き方を選択できる環境を整備することは重要である。

他方、現在の雇用関係を前提とした働き方を主眼に置いた環境では、こうした柔軟な働き方を選択した場合、既存の経済社会システムに適合できず不利益を被るリスクも存在し、個人が主体性をもって柔軟な働き方を選択しようとしても踏み出せない現状もみられる。

引用:経済産業省「雇用関係によらない働き方」開催要旨 より、複業推進の目的に関する内容を抜粋

 

中小企業庁の視点

中小企業庁は、2016年11月に「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会」を発足しました。

公開されている資料から複業推進の目的を紐解くと、前提として、中小企業庁は以下を目指しているようです。

  • 開業率を上げることにより、産業界の新陳代謝と新規雇用創出を図りたい

 

しかしながら、日本の起業活動指数は、OECD諸国の中でも最下位だそうです。そこで、複業という活動を、個人が起業を考えるきっかけにしたいということのようです。

確かに、複業をすれば多様な情報に触れ人脈も形成出来るので、ビジネスチャンスを見つけられるかもしれません。

ただ、筆者の個人的な考えですが、リスクを負っても「起業したい」と思うためには、自分の好き・やりたいという要素も必要だと思います。将来的な起業を視野に入れる場合、複業選びは自分の好きなこと・やりたいことをベースに考えると良いのかもしれません。

  • 企業による新事業創出や創業による産業界の新陳代謝により、新たな需要と雇用が創出されることが、日本経済の活性化にとって極めて重要である。そのため、日本再興戦略においてはKPI(重要業績評価指標)として、「開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す」こと、また、補助指標として、「起業活動指数1を今後 10年間で倍増させる」ことが目標として掲げられている
  • 兼業・副業は、「創業を考える人そのものが少ない」という日本の課題解決に大きく貢献する可能性がある
  • 誰もが希望すれば、複数の地域で、複数の仕事をすることができる社会になれば、その中の一つとして、自分自身で創業する可能性は高まり、開業率の増加にもつながる。そこでの創業は、単に収入を得ることが目的ではなく、社会貢献・地域貢献や趣味や文化活動の展開など、多様な価値観に基づく自己実現への取組となる

引用:中小企業庁「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業 研究会提言」 より、複業推進の目的に関連する内容を抜粋

 

企業が複業を解禁するメリット

企業には複業を解禁するメリットはあるのでしょうか。

IT企業のサイボウズ社は、2012年から「複業原則解禁」へと制度変更をしています。社長の青野慶久氏は自著で、複業解禁の理由を以下のように語っています。

人生は長い。いつまでもサイボウズに活躍の場があり続けるかどうかは分からない。自ら事業を興し、経済的に自立していく社員を育てることは、長期的な視点で雇用の最適化を図ることができる。

ベテラン社員が長年培ってきたノウハウへの需要が、社内で減ったとしても、社外にはいくらでも活躍の機会がある。それを促すことは社会全体で見れば適材適所になる。本人にとっても、新しい自分の活躍場所を見出し、より幸福に仕事をするきっかけになるだろう。

メンバーが複業をしている話を聞くのはとても楽しい。通常の業務の範囲では、まず得られない情報や人脈の宝庫だ。今後は複業がもたらすいイノベーションに期待している。

引用:青野慶久著「チームのことだけ考えた。」より抜粋

1つの企業で1人の人を、会社員人生を通じて抱え続けることは時代に合っていない、非効率であるという考えが伺えます

企業の規模や地域によって、求められるスキルは変わってくると思います。1つの企業に留まらず、少し違うジャンルの組織で複業を始めてみると、今とは違う自分の活かし方を見つけられるかもしれません。

 

人生100年時代における複業の役割

もう少しマクロな視点から見ても、複業を始めることは、個人にとってプラスに働きそうです。

世界的なベストセラー「LIFE SHIFT」には、100歳まで健康に生きられる時代に、どう戦略的に人生設計をしていくべきか記されています。

これまでは、20歳頃まで学び、60歳まで働き(日本の場合は終身雇用)、その後引退生活という3つのフェーズに分かれていましたが、その人生設計が崩れるということです。

今後は、求められる知識やスキルの変化により、再度大学などで学び直すことが必要になるかもしれません。また、引退後の生活資金を考えると60歳での引退は難しく、働く期間が長くなりモチベーションの維持も難しくなります。

そして、人間の方が企業より長命になったとも言われているため、1つの会社に勤め続けることは難しくなってきています。

そのような状況で、長く生きることを厄災ではなく、いかに恩恵としていくかがテーマとして記されています。筆者の主観になりますが、この100年時代における個人の行動指針になりうる内容を、LIFE SHIFTより抜粋しました。

100年以上にわたって生産的に生きる人生を設計する上では、計画と実験が重要になる。

万人向けのロールモデルを模倣することも難しくなる。100年ライフの計画を立てるためには、自分が何をしたいのか、どのようにそれを達成したいのかという重要な決断をしなければならない。問題は、正しい判断ができる場合ばかりではないことだ。

実験が重要な理由もここにある。昔のように特定のロールモデルに従っていればいい時代ではなくなり、ありうる自己像の選択肢が大きく広がる時代には、実験を通じて、なにが自分にとってうまくいくのか、自分がなにを楽しく感じ、なにに価値を見出すのか、なにが自分という人間と共鳴するのかを知る必要があるからだ。

引用:リンダ・クラットン/アンドリュー・スコット著「LIFE SHIFT」(終章:変革への課題)より抜粋

実験という言葉には、自分がやりたいことや求めるスタイルはすぐには見つからず、トライ&エラーを繰り返しながら見つけていくものだ、という意味が込められるのだと思います。

複業は、興味がある仕事に同時並行で関われますし、1つのことに全てを注ぐリスクも軽減されます。

複業というスタイルは、この実験を効率的に進める手段と言えるのかもしれません。

 

ドラッカーが複業を1999年から推奨していた理由

パラレルキャリア(第二の仕事=複業)という言葉が最初に使われたのは、P.F.ドラッカー著「明日を支配するもの」(1999年初版)であると言われています。

ドラッカーは、これからの時代になぜ複業が必要であると提唱したのでしょうか。

 

世の中の変化

ドラッカーは著書の中で、このように述べています。

歴史上初めて、人間のほうが組織よりも長命になった。そこでまったく新しい問題が生まれた。第二の人生をどうするかである。

もはや、30歳で就職した組織が、60歳になっても存続しているとは言い切れない。そのうえ、ほとんどの人間にとって、同じ種類の仕事を続けるには、40年、50年は長すぎる。飽きてくる。面白くなくなる。惰性になる。耐えられなくなる。周りの者も迷惑する。

引用:P.F.ドラッカー著「明日を支配するもの」より抜粋

LIFE SHIFTと同じく、時代の変化と共に、個人が1つの仕事で完遂することが出来なくなるという趣旨です。

同時に、これまでは組織が個人のキャリアをマネジメントしてくれましたが、これからは自分でマネジメントする必要があるとも述べられています。

 

複業を推奨する理由

では、具体的にどのように第二の人生を創っていくべきなのでしょうか。

1つ目は、文字通り第二の人生を持つことです。40代くらいで、組織や職業を変えて、収入ももちろんだけれど、新しいことに挑戦したいという気持ちを満たす方法が紹介されています。

2つ目の方法が複業です。うまくいっている仕事はそのまま、あるいはあえてパートタイムや契約社員になる。そうして出来た時間で、もう一つの世界で生きるというものです。

3つ目の方法は、社会起業家になることです。著書の中では、弁護士が私立学校を設立する例が出されていましたが、時代の変化によって、もっと多様で身近な選択肢になっているように感じます

いずれの方法でも、助走期間を設け複業的に始めることが推奨されていました。初めから、必要なスキルを持っているわけではないですし、軌道に乗るまでに時間がかかるためです。

自らマネジメントする、変化することは大きなストレスを感じることです。一方で、自分のやりたいことを仕事にするチャンスが増えた、何度かトライ出来るようになった、とも言えそうです。

 

AI時代の複業の選び方

せっかく好きな仕事を複業で始めても、すぐに機械に取って代わられたら悲しいですよね。AIが発達している昨今、どんな複業が長く続けられる仕事なのでしょうか。

 

機械に置き換えられる仕事トップ15

英オックスフォード大学のオズボーン教授らの論文「The Future Of Employment : How Susceptible Are Jobs To Comptuterisation?」の結果を基に、ダイヤモンド社がまとめた結果を抜粋します。

  1. 小売店販売員
  2. 会計士
  3. 一般事務員
  4. セールスマン
  5. 一般秘書
  6. 飲食カウンター接客係
  7. 商店レジ打ち係や切符販売員
  8. 箱詰め積み降ろしなどの作業員
  9. 帳簿係などの金融取引記録保全員
  10. 大型トラック・ローリー車の運転手
  11. コールセンター案内係
  12. 乗用車・タクシー・バンの運転手
  13. 中央官庁職員など上級公務員
  14. 調理人(料理人の下で働く人)
  15. ビル管理人

出典:ダイヤモンドオンライン「機械が奪う職業・仕事ランキング(米国)」より抜粋

私達が小さい頃から知っているような仕事や、アルバイトでやったことがあるような仕事が多い印象です。

 

人間とAIの”差”とは

これから、多くの仕事がAIに取って代わられると言われていますが、AIはどこまで仕事を代替出来るのでしょうか。人間とAIの差とは、一体何なのでしょうか。

ベンチャー企業の創業や投資を手がける孫泰蔵氏は、以下のように説明しています。

人間とAIとの差は何か。それは「欲望」の有無です。AIそのものには、欲望というものがありません。偉くなりたいとか、出世したいとか、お金が欲しいとか。

欲望がない、ということは、AIには人間の“ニーズ”というものがわからない。だからクリエイティブ=創造的にはなれないんです。つまり、クリエイティブの源にあるのは“ニーズ” 。こういうのが欲しいとか困っているという“ニーズ”を解決するのがクリエイティブの果たす役割なんです。

出典:日経ビジネスオンライン「社長は消える、スナックのママは生き残る」より抜粋

分かってはいるけど怠けちゃう、みたいな人間臭さを機械が理解するのは、まだまだ先のようです。

 

人間にしか出来ない仕事とは

具体的に、人間にしか出来ない仕事は、孫氏によると「クリエイティブワーク」と「人づきあい」だそうです。

クリエイティブワークとは、例えば法律を創る仕事。既存の法律から判断することはAIが得意とする領域ですが、創ることは人間にしか出来ないそうです。

また、人間のニーズ(=欲望)を満たす新規事業を創造することも、人間にしか出来ない仕事と言えるでしょう。

もう一つの、人づきあいの仕事では、保険の外交員やスナックのママを例に挙げていました。

気持ちを察して共感する、相談に乗るというのは、人の気持ち(=欲望)が分かっているから出来るようです。

機械に置き換えられる仕事ランキングでは、接客の仕事が多くランクインしていました。

ただ、これは言われたことをそのまま伝達するだけの仕事を指しているようですね。こういう仕事は、既にタブレットでの注文や、ECサイトでの発注に置換えられてるので納得です。

困っていることを考えて解決する、人づきあいで満足度の高い体験を提供する、という視点も複業探しの基準に持つと良いかもしれません。

 

まとめ

複業の目的は、政府や企業の視点では、生産性を上げる、イノベーションを加速させる、と読み取れました。個人にとって、この点が重要であるかは分かりませんが、少なくとも複業を初めとした働き方は、政府の後押しもあり今後柔軟になっていきそうです。

これまでの進路やキャリア形成は、受験や新卒一括採用など、決められた時に決められたことをやる、単線型が一般的でした。

一方で、複業は個人のタイミングでやりたいことにチャレンジ出来る柔軟性があります。仕事×仕事、仕事×学び、起業×企業など様々な複業スタイルをとることが出来そうです。

自分なりの複業スタイルを身に付けられたら、人生100年時代が大きな恩恵と感じられそうですね。

 


2017年05月03日 | Posted in 複業の基本知識 | | No Comments » 

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