田畑と古民家から作る、農がある暮らしと子育ての場

 子どもの頃、きれいな星空を見て宇宙に興味を持ったり、強烈な実業家に会って起業を志したり。

関心を示すことはみんなそれぞれ違うけれど、多彩な体験の一つ一つが、将来の夢や価値観を形作る。

変化が激しい時代だからこそ、子どもはもちろん、大人にとっても、多彩な体験が出来る場が必要なのかもしれない。

 NPO法人くにたち農園の会は、畑や田んぼで遊んで学べる“くにたち はたけんぼ”や、田畑とつながる子育て古民家“つちのこや”の企画や運営を手がけている。

2013年に、“くにたち はたけんぼ”が、国立市の農業農地を活かしたまちづくり事業の、モデル農園として開園したことが発端となっている。当初は任意団体だったが、2016年12月からNPO法人として再スタートした。

理事のメンバーは、農園アドバイザー、リトルホースとふれあう会 発起人、野忍流 忍者など、様々な肩書を持っている。

 今回は、JR南武線谷保駅から歩いて5分の“つちのこや”を訪れ、理事長の小野淳さんと、副理事長のすがいまゆみさんに話を聞いた。

 小野さんは、くにたち農園の会の理事長と共に、株式会社農天気の代表も務めている。大学卒業後にテレビ制作会社に就職し、その後いくつかの農業生産法人を経て、今では都市農業を通じた体験の提供に力を入れている。

「テレビ制作会社に入ったのは、映画を作りたかったのと、大学で探検部に入っていたので、もっといろんなものを見つけて伝えていきたいと思ったからです。探検部では、奥アマゾンのギアナ高地や、紛争前後のバルカン半島などを放浪したんですよ。」

「農業へ転身したのは、環境をテーマとしたTV番組“素敵な宇宙船地球号”(テレビ朝日)などを手掛けたことがきっかけです。ただ消費を繰り返すのではなく、持続性も意識しなければ都市をはじめとした社会を保てないと感じたんです。」

「今は、くにたち農園の会でも農天気でも、生産や販売ではなく、田畑で体験出来るサービスに軸足を置いています。」

「10年以上農業に関わっていますが、都市の農業は、身近に農地があることの価値を、より多くの人に感じてもらうことが、生き残る道だと考えたからです。」

 “はたけんぼ”は、個人向け貸し農園や市民農園とは、少しイメージが違う農園だ。

「土地の利用比率は、畑が4、田んぼが1、動物の施設が1、広場が4くらいです。畑作業だけでなく、他の楽しみ方も出来る場所、という絵を描いて作りました。」

「以前、農業生産法人に勤めていた時に、個人向け貸し農園もやっていました。ただ、それだと畑を利用する人が、借りている個人と、その家族や知人に限定されるんです。」

「今のはたけんぼの形だと、イベントなどで多くの人が訪れてくれます。貸し農園もやっていますが、企業や団体に特化することで、利用者を増やすことが出来ています。」

「子ども向けの企画としては、学校帰りに畑に立ち寄る“はたけんぼ放課後クラブ ニコニコ”や、2歳までの親子で自然体験をする“森のようちえん 谷保のそらっこ”などを運営しています。」

 “つちのこや”は、NPO法人設立後すぐの2017年2月に、地域に根ざした、子育て支援施設、食堂、集いの場としてスタートした。

「以前入っていた飲食店が抜けることになり、僕らのところに話が舞い込んできました。」

「飲食の経験はありませんでしたが、前から好きな場所でしたし、これからも人が集まる場所にし続けたいと思って、『やりましょう』と応えたんです。」

「ただ、僕らは『農が身近にある暮らし』の実現を軸とした団体だったので、改めて自分たちが古民家で事業を手がける意義を考えました。」

「そして行き着いたもう一つの軸が、『子育て支援』だったんです。世の中的に大きな課題でしたし、はたけんぼでは、既にファミリー向けイベントも多く手がけていました。また、理事メンバーが先生の資格を持っていたり、子育て経験者も多く、関心が高かったのも理由の一つです。」

「私個人としては、はたけんぼとつちのこやを合わせると、オリジナリティが高い場になるなということも魅力でした。元々映画を作りたいと思っていたように、エンターテイメント性は意識したいんですよ。」

 すがいさんは、くにたち農園の会とは別に、“野の暮らし”を主宰しており、地域の居場所づくりを以前から行っていた。任意団体設立時から、小野さんと共に“はたけんぼ”や“つちのこや”を作り上げてきた。

「つちのこやは、2016年12月に施設利用の話がきて、2017年1月に以前の飲食店が抜けて、2月にはオープンしたので、ものすごいスピードでやりました。」

「お客さんにも、『歩きながら作っていくので、それに付き合って下さい』と、伝えていたんですよ(笑)。」

「食堂を切り盛りしてくれている方の一人は、野の暮らしの一昨年の忘年会で、『お惣菜屋さんをやりたい』と言っていた方です。料理がすっごいおいしかったから、『どうすれば実現出来るんだろうね』と話していたら、つちのこやで実現させることが出来ました。」

 くにたち農園の会の理事も、いろんなつながりから集まってきたメンバーだ。

谷保のそらっこ代表の佐藤は、野の暮らしのコミュニティガーデンの近くに住んでいました。そらっこを立ち上げたいと言っていたので、『立ち上げればいいじゃない』と言って、ちょっとした手助けをしたんです。」

リトルホースとふれあう会の二人は、場所を探していると知人から紹介されて、はたけんぼを常駐の場所にしてもらいました。はたけんぼに時々来ては、柵を作るところから始めていたんですよ。」

理事メンバーや携わっている人たちは、それぞれ手がけることは多彩だけれど、地域や子育て支援への想いは強い。

「みんな、地域をどうしたいか、どういう暮らしをしたいか、という視点で企画や運営に携わっていると思います。」

「子育てをしているメンバーも多く、子育てをしながら子育て支援をしているんですよ。」

「子育ての悩みはみんなそれぞれ違うと思うんですけど、ここに来ればなんとかなるんじゃないかな、と思われる場所にしたいと思っています。」

 取材も中盤に差し掛かった午後2時半頃、子どもたちがやってきた。

普段は、“はたけんぼ放課後クラブ ニコニコ”で、学校帰りに畑に直行するのだけれど、この日は雨だったからつちのこやに来たようだ。すがいさんは、子どもたちの面倒を見に、戻っていった。

「勉強したり、絵本を読んだり、糸よりをしたり、それぞれがやりたいことをやっています。勉強している子は、やらなきゃって自分で決めてやっているか、あるいは糸よりに興味がないんじゃないですかね(笑)。」

「畑でも、芋ほりをしたり、リトルホースの餌やりや馬小屋そうじをしたり、染め物をしたりします。ただ、その活動に参加しても参加しなくても、自由なんです。」

「それぞれがやりたいことをやるって、当たり前のことだと思うんですよね。」

「放課後は塾に行く子も多いですが、共働きで家に子どもだけを置いておけないから、という理由もあると思うんです。学校の後に、また塾で勉強するって、なんかつまんないじゃないですか。」

「もっと選択肢が多くてもいいと思っているんです。ここは気軽に来れるので、最近は外国から来た方が、言葉が分からなくて暮らしも大変だったようなんですけど、気に入って来てくれたりしています。」

 小野さんが提供したいのは、多彩な体験だ。

「都市という閉じた空間で出会えるものって、人間が作ったものだから、世界として狭いなって思ったんです。」

「僕が大学時代に探検部で見た世界は、もっと多様でした。そういう片鱗を感じさせられる場所にしたいんです。」

「学校とか会社って、正しい振る舞いが定まっていて、合わない行動をすると白い目で見られるじゃないですか。なるべくそういうのがない場所にしたかったんです。開放感が生まれる場所というか。」

「“どろまみれ”っていう、田んぼの中でどろどろになって遊ぶだけの企画があるんですけど、大人が喜ぶんですよ。」

「今ってどこに行っても均質なサービスが受けられたり、スマホも普及して、自分が見たいものだけを見れるようになってきています。」

「でもね、偶然の出会いがあった方がおもしろいと思うんですよ。今、台所で料理していた女性が来ましたが、例えば、勉強や糸よりをせずに、彼女の料理に興味を持ったりとか。」

「いろんな人がいろんなことをやることで、たまたま出会っちゃったことにすごく惹かれたり、そういうコミュニケーションが生まれてほしいんです。」

 いろんな方々にくにたち農園の会に携わって欲しいし、理事メンバーの経験も環境も多様だから、やりたいことも応援出来る。

「自分のやりたいことを実現したいという熱い意志があれば、かなりのサポートが出来ると思います。」

「純粋に手伝いたい、という人もうれしいです。ただ、明確にこれをやって欲しいと伝えるのは難しいかもしれません。」

「定められた場所というより、『ここはなんなんだ』っていう、毎回やることが変わるような、盛りだくさんな場を目指しているからです。多様性にあふれた場にしたいんですよ。」

「“はたけんぼ”や“つちのこや”の場の魅力を引き立てて、自然と人が集まって何かが始まるような、仕組み化とは逆の世界を目指しているんです。」

 取材後、建物の前で写真を撮らせてもらう時、小野さんが「ここらへんは蛇も出ますよ」と言っていた。

敷地から出るとすぐに国道が通っているのだけれど、ここだけは古民家と小さな森に囲まれた、非都市的な空間だった。

他にはない唯一といっていい環境で、子育て支援や農業、地域コミュニティなど、関心があることから何か始めてみませんか。

NPO法人くにたち農園の会
求める役割 ①自身の企画あるいは弊団体のアイディア段階の企画を、くにたち農園の会理事メンバーやリソースを利用して、推進してくれる方
②イベントや日々の運営を手伝ってくれる方(こちらをご参考ください)
働く場所 ・くにたち はたけんぼ 東京都国立市谷保661
・つちのこや 東京都国立市谷保5011
働く時間 お仕事や学校などの状況に応じて、相談可能です。
求める人物像 ①田畑を活用して実現したい企画をもっているひと
②田畑や古民家での子育て支援をやってみたいひと
雇用形態 ①ボランティアが基本となりますが、予算・助成金の状況によってはお支払可能です。その場合は業務委託等の形態を考えております。
②ボランティアスタッフ
給与 ①ボランティアが基本となりますが、予算・助成金の状況によってはお支払可能です。
②ボランティアスタッフ
募集予定人数 複数名
選考プロセス 以下のフォームより、お名前/メールアドレス/電話番号/ご年齢/応募動機(短くて結構です)をお送りください。担当者から追ってご連絡させていただきます。質問や、ご相談等も受け付けております。
その他

2017年10月07日 | Posted in 求人 | | Comments Closed 

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